鐘の音に背中をおされる
信濃の国、中山道芦田の宿の北側に津金寺という天台宗の古刹がある。
信濃の談義所とも言われ創建千三百年余。樹齢700年とも言われる杉の大木を中心にして由緒を感じさせる風格を持っている。
このお寺の裏山を手入れして、いろいろな山野草が植えられ保護されていると言うので見に行った。
傍の「権現の湯」という日帰りの温泉に浸かった後、夕暮れにはすこし間があったので、人けの無い駐車場に車を止め、カタクリの花を見に園内をまわった。
標高700mほどになるか、浅間山と蓼科山にはさまれたこの地の春は遅い。ようやく、草木も目ざめる準備をしたところと言った感じで落ち葉がカサコソと音を立てるだけの落葉樹の林の麓にカタクリがまばらに花を咲かせ、その脇にアズマイチゲが白い花をうつむき加減に咲かせていた。
花の数としては、他所のカタクリ園などより疎らではあるが、千曲川沿い、佐久盆地の一部で、朝冷気が溜まり、まだ、霜がよく降りるこの地のカタクリは、根元ががっちりとして丈夫そうに見える。
お寺の裏山が散策路になっているため上ると、平安時代から鎌倉にかけてこの地の豪族だった滋野一族に関係するらしい宝印塔が無数通路脇に立ち並び一際立派な三基の県文化財の所まで来た時、背中をおされるような力でお寺の鐘が撞きならされた。予期していなかっただけにびっくりすると同時に日ごろ神仏に無関心な私にも、なにかの因縁を感じさせるものがあった。
そうして、廻った最後には、まだ、枯葉を残したままのマンサクと山延胡索(ヤマエンコサク)が一株だけ青い花を燃え上がらせるように咲かせていた。{この花、私は名前を間違って憶えていたため花図鑑で探し当てるのに随分と時間がかかった。ケマンの仲間だそうだ}
日はすでに山の端に沈み、たそがれは次第に深くなって、風呂上がりの身に寒さを感じてきた。
さて、それでは今夜の宿、 義弟の家へ おりから今日は潅仏会、お釈迦様も甘茶でかっぽれの日だ「酒が飲める 酒が飲める酒が飲めるぞ~」と飛び立つように向かう。
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